661: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 21:11:31.36 ID:55N5yBsEo
no title
夕立完結編、はじまるよー

引用元: 『終末艦これショート』

662: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 21:12:49.78 ID:55N5yBsEo

【ソロモンより、呪いのような祝福を全ての艦娘に】



――あなたは、運命の超越者足りえますか?



千歳「……何の、こと?」


エラー娘「あなたは普通の艦娘では至れない領域へと達しました。
それは改造で得られるものではなく、自らの成長によって、
或いは因果の昇華によって到れるものです」

エラー娘「そんなあなただからこそ、見えるものがあるはず。
その境地にあなたは至った」

千歳「私はそんな大層なものになった覚えはありません。
……それに、見えるって何が?」

エラー娘「本当に正しいことは何か。悪意の在処。そして……」


エラー娘「終末に至る運命」


千歳「終末……?」

エラー娘「あなたになら見えるはずです」

千歳「……何のことだか、さっぱり」

エラー娘「あなたは戦わなくてはならない。艦娘の宿命と」

千歳「宿命、ですか……」



千歳「軍艦の頃から色んな物を背負ってきたけど……いい加減開放されたいものね」



663: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 21:16:05.55 ID:55N5yBsEo



――あなたは、運命の超越者足りえますか?



北上「んー? ちょっと意味が良くわかりませんねー」

大井「そうよ、あなた、訳わからないこと言って北上さんを
困らせないでくれない?」

エラー娘「本当はわかっているはずです。あなた方はあなた方の枠を超えた。
その絶対的な力に……気づかないはずがありません」

北上「……まぁ、重雷装巡洋艦が本気を出せば、多少はねぇ?」


エラー娘「……嘘ですね。あなたは本気を出していない」


エラー娘「軍令部のお粗末な作戦に振り回され、あなた達が戦うのはいつも格下の相手。
本当の全力なんて、出したことがないはず。自分達を持て余す軍令部に苛立っているはず」

北上「まー、あたしって強すぎるからねー」

大井「流石北上さんっ」

エラー娘「……こう考えたことはありませんか? 無能な軍令部に従うより、
自分のやり方で戦った方がはるかにマシだと」

北上「……そうは思わないよ。艦隊は全体が機能して万全。
あたし一人が独断で行動しちゃ、皆困っちゃうしさー」

エラー娘「ならばあなたが皆を率いればいい。あなたにはその力がある」

北上「いやいいよー。あたしそういうの柄じゃないしさ~」

大井「北上さん……私の心の旗艦はいつもあなた……!」

エラー娘「……ならばその力、あなた方は一体何に使うつもりですか?」

北上「そりゃあもちろん……」


北上「海の平和と、愛の為だよ。ね、大井っち?」


大井「私の愛はいつも北上さんと共に……」


664: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 21:19:10.32 ID:55N5yBsEo



――あなたは、運命の超越者足りえますか?



五十鈴「? 何? 何が言いたいの?」


エラー娘「あなたは何故戦うのですか? あなたはもう十分に頑張った。
かつての戦いで死力を尽くし、沈んでいった」

エラー娘「にも関わらず……あなたは再び満身創痍の戦いの中に身を投じている。
何故ですか? 何が貴女をそうさせるのですか?」

五十鈴「……なんで戦うのか、ですって?」

五十鈴「そんなの、今も昔も変わらないわ。海の平和の為に、戦っているだけよ」

エラー娘「矛盾ですね。平和であることを願うのに、それ以前にあなたは兵器。
戦うことを宿命付けられている存在……平和には無用の長物」

五十鈴「そうね……確かに私はかつて"兵器"だった」

五十鈴「でも今は違う! 自分の意志を持ち、考える事ができる!
私は"艦娘"! 生まれ変わったのよ!」

五十鈴「私達が艦娘という存在に生まれ変わった意味……それはもう
二度と繰り返さないこと!! 今の私達にならそれができる!」

エラー娘「……かつての戦争の清算ですか?」


五十鈴「清算なんかじゃないわ。受け継ぎ報いる為よ……」


五十鈴「私はあの戦争を否定しない。……やり方は正しくはなかったかもしれないけど、
みんなの想いや戦いは否定したくない。彼らの存在が、命が、未来を繋げ、
そして巡り巡って私という存在に辿り着いた」

五十鈴「そんな私がすべきことは……彼らの戦いは決して無駄なんかじゃなかったって
この存在を以ってして証明することよ」

五十鈴「それが私の戦う理由……わかった?」

エラー娘「また……同じ結末を辿るかもしれませんよ?」



五十鈴「変えてみせるわよ、そんなの。その為の二度目なんだから」



エラー娘「艦娘達は皆、終末の因果を孕んでいる。艦娘という存在の因果は……
この世界に破滅を引き寄せ、再び終末を繰り返そうとしている」

エラー娘「彼女にそれを覆す力があるかどうか……運命の超越者足りえるならば、或いは……」

665: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 21:21:42.21 ID:55N5yBsEo



――あなたは、運命の超越者足りえますか?



響「……あの戦いは、避けられなかった。そしてあの結末もまた……逃れようのない運命だった」


響「だけど、それでも……私は諦めたくなかったんだ」

響「暁も、雷も電もみんな……随分と先に逝ってしまった。
長い時間私は一人で先の世を見ていた……」

響「平和な世の中だった。争いが完全になくなった訳ではないけれど……人が、人並みの幸福を
手にすることが出来る世の中だった。私達が望んだ世界が、そこにあったんだ。だけど……」


響「だけど私は……ッ! みんなと、みんなと一緒にその風景を見たかったんだ……!」


響「仕方ないこと、どうしようもない事だとわかっていても……後悔が尽きることはなかった」

響「だから私は決めた。二度目は起こさないと」

響「今度は皆で迎たい……笑顔の明日を」

エラー娘「それが、あなたの願いですか?」

響「そうだよ……もうあんな思いをするのはゴメンだ」


響「そのためならば……私はどんな過酷な戦いにだって赴こう
不死鳥のごとく、何度でも何度でも立ち上がるよ」


エラー娘「……その想いの強さが、運命を凌駕できる事をお祈りいたしましょう」



666: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 21:23:14.49 ID:55N5yBsEo



――あなたは、運命の超越者足りえますか?



エラー娘「あなたには薄々気付き始めているはずです。この世界の理に」


神通「……世界の理……ですか」


エラー娘「艦娘と深海棲艦。善意と悪意。この母なる海に沈むものは何か……」

エラー娘「あなたは気付き始めている。この戦いには果てがないことを」

神通「だとしても……」


神通「果てが無いとしても、私は戦い続けます」


エラー娘「それはあまりにも残酷な選択です」

神通「そうでしょうか? あながち悪いものでもないですよ」

神通「戦いは無くなりません。でも、戦って死ぬことは……なくなるかもしれない」

神通「100は無理でも、100に限りなく近づけることはできる……それで十分です」

神通「何を以ってして平和と言うか。何を以ってして正義なのか。そんなの人それぞれ。
万人が納得する完璧なんてありませんから」

神通「だから私はちょっと妥協して、最適解を最大限に追求します。
完璧じゃなくてもいい……でも、出来るだけベストに近づけるベター……」


神通「それなら……いずれ訪れるかもしれないという期待が持てます
そんな世界を夢見て、戦えます」


エラー娘「受け入れることで、克服する……それもまた一つの選択ですね」


667: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 21:24:32.17 ID:55N5yBsEo



――あなたは、運命の超越者足りえますか?



木曾「運命? そんなもの、この重雷装艦の酸素魚雷で切り開いてやるよ」


エラー娘「その酸素魚雷、向ける相手は深海棲艦ですか? それとも……あなたの姉妹ですか?」

木曾「……何を言ってるのか、わからないねぇ」

エラー娘「どうでしょうか? あなたの頭の片隅には、その可能性が浮かび上がっているはずです」

エラー娘「艦娘は、轟沈すると深海棲艦になると」

木曾「……あぁ、そんな話もあったな」

エラー娘「轟沈したあなたの姉妹があなたの前に現れた時、あなたは姉妹を撃てますか?」


木曾「撃つさ」


エラー娘「……即答ですね」

木曾「そいつが俺の姉妹艦であれ、そうでなかれ。海の平和を脅かしていることに
違いはないんだろう? ならばやることは変わらない」


木曾「変わる事といえば……ただの撃破が、姉妹や仲間の鎮魂に変わるだけさ」


エラー娘「迷いなきその意志は……もしかすると運命を超えるかもしれませんね」


668: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 21:26:15.21 ID:55N5yBsEo



――あなたは、運命の超越者足りえますか?



エラー娘「あなたは名実共に、ソロモンの悪夢に相応しい存在となった。
その力であなたは何をするんですか?」


夕立「何って、今までと変わらないっぽい。夕立はできる事をするだけよ?」


エラー娘「静かに終わりつつあるこの世界で、今まで通りになんてできる筈がありません」

エラー娘「それではいずれあなたも……向こう側へと行きますよ?」

夕立「向こう側? 何のことかしら?」

エラー娘「……こんな話を聞いたことはありませんか? 沈んだ艦娘は深海棲艦になると」

夕立「……噂でしょ? 夕立は知ってるっぽい!」

夕立「沈んだ艦娘よりも、深海棲艦の総数の方が明らかに多いっぽい!
やっぱりそんな話出鱈目っぽい!」

エラー娘「……信じるも信じないも、あなたの自由です」


エラー娘「救いは求めるものではなく、見出すもの。ですがその裏に潜む絶望も
紙一重に存在しているということを……忘れないでください……忘れないでください……」



――泊地・港――



「――立、夕立!」

「夕立!」

夕立「っぽい!?」

時雨「……こんなところで寝てちゃ駄目じゃないか、夕立。
今日は出撃があるってこと、ちゃんと覚えているかい?」

夕立「寝てた……っぽい?」

夕立(さっきのは……夢?)

夕立「何だったのかしら……?」


夕立は白波湛える海の水平線の向こう側をじっと見つめた。
そこには何か夕立自身も知らないものがあるような気がして、不安になった。


669: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 21:29:31.05 ID:55N5yBsEo

陽炎「夕立ー! 時雨ー! 早く早く! 点呼に遅れるわよー!」

時雨「ま、待ってよ……」

夕立「ぽい!」


神通「……あ、あの……皆さん、集まりましたか?」


叢雲「大分前から来てるわよ」
綾波「綾波、準備万端です」
雷「雷は大丈夫よ?」
電「なのです!」
若葉「若葉だ」
朝潮「はい。いつでも出撃可能です」
満潮「いつまで待たせる気かしら?」
陽炎「私の出番ね?」
黒潮「ぼちぼちやなー」
初風「ごはん、まだなの?」
雪風「艦隊をお守りします!」

時雨「ふう……間に合った」

夕立「真打ちは遅れて登場するっぽい?」

叢雲「馬鹿なこと言ってないで、さっさと並びなさいよ! 全く……」


神通「全員揃ったようですね」


神通「……本日は、敵の巡航艦隊の偵察を行います。敵の撃破ではなく、あくまでも偵察です」

神通「私と共に航行する第一艦隊には戦闘の用意もしていただきますが、
基本的には戦闘が起きないのが好ましいです……」

朝潮「常に戦闘には備えるようにしています!」

神通「また、第二艦隊の皆さんはなるべく敵を避けてください。
重ね重ね言いますがこれは偵察です。あなた方は敵を発見することではなく、
敵のいない場所を調査することに専念してください」

若葉「若葉だ。了解だ」

670: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 21:30:34.80 ID:55N5yBsEo

神通「編成は各自確認しておいてください。準備が整い次第、出撃します」


◇第一偵察隊◇

《旗艦》:軽巡洋艦 神通
駆逐艦 雷
駆逐艦 朝潮
駆逐艦 満潮
駆逐艦 黒潮
駆逐艦 初風


◇第二偵察隊◇
《旗艦》:駆逐艦 陽炎
駆逐艦 叢雲
駆逐艦 綾波
駆逐艦 電
駆逐艦 若葉
駆逐艦 時雨
駆逐艦 夕立
駆逐艦 雪風




671: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 21:34:19.24 ID:55N5yBsEo
――海上――


電「今日は雷ちゃんと別れて任務なのです……」

雷「もー、司令官ってばそういう所融通が効かないんだからっ
やっぱり私が秘書艦務めてあげないと駄目ねぇ」

叢雲「アンタみたいなお子様に、秘書艦が務まるのかしらね?」

雷「あーっ! 叢雲ってばひっどーい!」

叢雲「秘書艦には私のような落ち着いて大人っぽい艦娘がふさわしいのよ」

陽炎「……どっちも大して変わんないじゃない」

叢雲「ど、どこ見て言ってんのよっ」

黒潮「まぁ、うちら駆逐艦やしねー。胸は今後に期待ゆうことでー」

雪風「でも、雪風と同じ陽炎型の浜風ちゃんは雪風よりもずっと大きかったです」

陽炎「あの子は例外だから(白目)」

朝潮「胸の大きさが秘書艦に関係するのですか?」

満潮「意味分かんないわよ。そんな訳ないじゃない」

初風「じーっ……」

朝潮「な、何か?」


初風「朝潮、あんた……胸、少し大きくなったんじゃない?」


満潮「!?」

叢雲「なん……」

雷「……だと!?」

朝潮「言われてみれば、確かにそういう気も」

叢雲「私なんて艦娘として生まれてから一度も大きくなったこと無いのに……」

雷「いいのよっ! 司令官は私のようなスレンダーな体型の子を愛してくれるんだからっ」

若葉「ロリコンか」

時雨「それはそれでどうかと思うな……」

672: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 21:36:22.77 ID:55N5yBsEo

夕立「……」

時雨「……夕立?」

夕立「ぽい!? あ、しぐれちゃん。なぁに?」

時雨「いや、何か夕立、ぼうっとしていたからさ……どうかしたの?」

夕立「んー……ちょっと今日見た夢のこと考えてたっぽい?」

時雨「夢? それはどんな……」


神通「……えっと、皆さん。そろそろ偵察海域に入ります。
艦隊は第一偵察隊と第二偵察隊に別れてください」


朝潮「了解!」

陽炎「両舷全速! さぁみんな、私に着いて来て!」

綾波「さぁ~、いきましょ~」

時雨「あ、ああ、うん……」

夕立「……」

夕立(なんだろう……)

夕立(あの夢を見てから……ずっと胸騒ぎがする)

夕立(どうしてかしら……?)


673: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 21:39:35.61 ID:55N5yBsEo

――海上・偵察海域――


陽炎「皆! しっかりと目を凝らして、敵がいないか確かめてねっ」

叢雲「勝手に仕切ってくれてるわね……全く」

陽炎「なによー。旗艦だから当然でしょ?」

叢雲「アンタが旗艦だなんて、全くありえないわね!」

叢雲「常識的に考えて艦齢の高い私が旗艦でしょ?」

陽炎「年功序列じゃなくって、実力主義ってことよ」

陽炎「この中じゃ陽炎型が一番最新鋭だしねー。その上ネームシップなんだから
旗艦としての不足はないと思うけど?」

叢雲「私の実力がアンタに劣っているとでも?」

電「はわわ、皆さん、仲良くなのですっ」

時雨「ほらほらそこ、喧嘩はやめなよ」

若葉「任務中だ」

陽炎「わかってるわよ、もー……」

叢雲「ふんっ」

時雨「なんだか少し不安になってきたよ……」

雪風「大丈夫です! 艦隊にはこの雪風が付いていますから!」

夕立「ソロモンの悪夢もいるっぽい!」

綾波「鬼神もいますよ」

時雨「君達って、本当にそうは見えないよね……」

夕立「っぽい?」

綾波「自分でもよくわかりませんね」

雪風「能ある鷹は爪を隠すと言いますから」

時雨「君達は隠してる訳じゃなく、自然体でそれじゃないか……」

夕立「……」


なんとなくまとまりがない艦隊。皆が皆どこか散漫だった。
歯車が噛み合わないような、そんな感覚がなんとなく艦隊全体に充満する。

そのなんとなくは積み重なり、静かな崩壊を招くのだ。


674: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 21:43:32.39 ID:55N5yBsEo

電「夕立さん。軍楽隊の課題曲はもう覚えましたか?」

夕立「ううん……まだちょっとわからないところがあるっぽい」

夕立「夕立だけ皆から遅れてるから……足を引っ張っちゃってごめんなさい」

電「そ、そんなこと……気にすること無いのです! 夕立さんは入るのが少し
遅かったんですから、皆より遅れてしまうことは仕方がない事なのです」

電「なんでしたら、帰ったら電と一緒に練習するのです!」

夕立「いなずまちゃん、ありがとー!」

時雨「そうだよ。焦る必要なんて無いさ……時間はたっぷりある」


若葉「果たして本当にそうか?」


時雨「……何がだい?」

若葉「戦局は後退していく一方だ。果たして若葉達には、一体後どれほどの時間が残されているのか」

叢雲「な、何よアンタ……誇り高き帝国海軍の艦艇がそんな弱気になるなんて、情けないわよ」

雪風「大丈夫です……今は辛い状況が続いていますが、
きっと打開できるチャンスは訪れるはずです」

時雨「そうさ。それに泊地がピンチになっても、本土にはまだまだ強い艦娘が控えている
いざとなったら彼女達が助けてくれるさ。……だから大丈夫」

若葉「そうか。それを聞いて安心したぞ。最近お前達は皆意気消沈していた。
てっきりもう諦観しているのかと思って心配していた。だから今のような発言をした」

若葉「若葉の杞憂か。ならいい」

時雨「そうなんだ……」


若葉の言葉が各々の心に重くのしかかる。皆口々にそれを否定していても、
心の内では「自分達は深海棲艦に勝てないのではないか」という疑念を少なからず抱いていた。

彼女達の口は一気に重くなり、会話はプツンと途絶えた。



電「あ、あれ……敵さんじゃないですか?」



675: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 21:45:59.49 ID:55N5yBsEo

叢雲「敵!? どこ、どこよ!?」

電「ほら、あそこ……」

綾波「駆逐艦が……一隻ですか?」

叢雲「なんだ、たった一隻?」

時雨「はぐれたのかな……?」

陽炎「妙ね……まだ日は落ちてないわよ?」

叢雲「なんだっていいわ。さっさと沈めちゃいましょ?」

陽炎「ちょ、忘れたの!? 今日の任務は、偵察であって戦闘じゃない」

叢雲「倒せる敵を倒せる時に倒さないでどうするのよ!」

陽炎「そういう行き当たりばったりの戦い方はよくないわよ。それはかつての戦争で
さんざん思い知らされたでしょうに」

叢雲「その時の柔軟な判断によって成功させてきた作戦だってたくさんあるわ
状況に応じて判断する能力……そういうものが旗艦には重要なのよ? わかってる?」

陽炎「考えた上での結論よ。無駄なリスクは回避すべきなのよ」

叢雲「陽炎、アンタは慎重すぎるわ。そんなんだからサウスダコタを見逃すのよ」

陽炎「そ、それは今関係ないじゃない!」

時雨「またなのかい? 君達は……」

雪風「け、喧嘩はやめてくださいぃ」


電「あ……敵さん、こちらに気がついたみたいなのです」


叢雲「ああもう! グズグズしてるから!」

陽炎「もうっ! 全軍鱗次陣に移行! 陣形運動急いで! 敵を逃しちゃ駄目!」

綾波「や~りま~すよ~!」



第二偵察隊、敵駆逐艦を追撃。


676: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 21:48:12.55 ID:55N5yBsEo

夕立「よりどりみどりっぽい!」ドン

バシャン!

夕立「っぽい!」ドンドン!

バシャン!

駆逐イ級「!!」


駆逐艦 夕立、第一射近弾、第二射夾叉。


時雨「逃さないよ!」


ドゴン!


駆逐艦 時雨、砲撃着弾命中!


駆逐イ級「……、ッ!? ……、……」


敵は一隻であった為、艦隊は難なく敵艦を撃破した。


叢雲「……手応えないわねぇ。最初からこうしていればよかったのよ」

陽炎「早く元の偵察ルートに戻らないと……」


しかし彼女達は気づいていなかった。何故敵の駆逐艦が一隻ではぐれていたのかを。


電「あれ……なんだか周りが……」


敵の駆逐艦を追うことに夢中になって、彼女達は周囲が見えていなかった。


時雨「これは……霧?」

677: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 21:50:48.26 ID:55N5yBsEo

叢雲「いつの間にこんな霧が……」

陽炎「……まずいわね、どんどん濃くなっていくわ。
探照灯と浮標の用意しとかなくちゃ……」

雪風「どうしますか……このままでは偵察は困難です」

陽炎「今神通さんに連絡を入れるわ。待ってて」

若葉「この霧は……あの事故を思い出すな。あの衝突さえなけえば……」

電「なんだか、暫く待機みたいですね」

時雨「そうだね……」

夕立「……嫌な霧」


陽炎は神通に通信を送ったが、艦隊は作戦行動中なのか中々繋がらなかった。
その間にも霧はどんどん深くなっていき、景色を白く染め上げていく。


夕立「……」


際限なく続く白に、夕立は吸い込まれてしまいそうだった。
霧の織り成す白の境界は、まるでこの海域だけが外界から隔絶されたかのような
錯覚を呼び起こす。


「……ぅだち、……ゆうだち……」


だからその声も、錯覚のはずだった。


夕立「……!」


「ゆうだち……ゆうだち……」


夕立("この声"……前に泊地の近くで聞いた……あの声)

夕立(しらつゆちゃんみたいな、声)

夕立(そんな筈ない。だってしらつゆちゃんは……)


そう思いつつも、夕立は自然と前進していた。


678: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 21:54:06.10 ID:55N5yBsEo

陽炎「やっと繋がった! 陽炎よ、よろしくね!」

神通『陽炎さん……ですか』

陽炎「神通さん! ちょっとこっち霧がすごいのよ~……これじゃあ任務の続行は
困難だわ」

神通『霧ですか……確かにこちらも少し、出てきていますね』

神通『……陽炎さんの電探は……確か二号二型でしたね。
最大有効距離は35km……いえ、駆逐艦だから17km』

神通『その装備では霧中での平常航行は非情に難しいでしょう。わかりました、
今日のところは引き揚げましょう。一応提督にも掛け合いますが、
恐らく了承は得られるでしょう』

陽炎「ふぅ……よかった」

神通『皆さんは現海域を離脱してください。間違っても逆方向に進んではいけませんよ?
この先は敵のテリトリーになっているのですから』

陽炎「わかってますよ~。そこまで方向音痴じゃありませんってば」

神通『……いいですか、くれぐれも、くれぐれもお間違いの無いように』

陽炎「ね、念を押しますね……」

神通『幸運を頼りにはできませんが、不運による最悪のケースを想定することには
意味があります』

陽炎「こっちにはその幸運を頼りにできるのが一人いるけどね」

神通『では、ラン[ピザ]ーポイントにて落ち合いましょう。こちらは少し遅れるので
そのように……』

陽炎「わかりました! それじゃあ、陽炎、失礼しまーす!」

陽炎「……ということだから皆! 今日はさっさと帰りましょー」

叢雲「駆逐艦一隻としか戦ってないじゃない。なんだか物足りないわね」

雪風「まーまー、戦わなくて済むのならそれでいいじゃないですか」

電「なのです!」

陽炎「とりあえず……私は浮標を着けるから、皆、見失わないようについてきてね。
霧中信号を出すのも忘れないで」

綾波「……あれ、そういえば……」

若葉「どうした」

綾波「いえ、その……先程から夕立さんのお姿が……」

時雨「……ない」


時雨「夕立が……いない!」

679: saga忘れ 2014/04/06(日) 21:54:56.49 ID:55N5yBsEo
陽炎「やっと繋がった! 陽炎よ、よろしくね!」

神通『陽炎さん……ですか』

陽炎「神通さん! ちょっとこっち霧がすごいのよ~……これじゃあ任務の続行は
困難だわ」

神通『霧ですか……確かにこちらも少し、出てきていますね』

神通『……陽炎さんの電探は……確か二号二型でしたね。
最大有効距離は35km……いえ、駆逐艦だから17km』

神通『その装備では霧中での平常航行は非情に難しいでしょう。わかりました、
今日のところは引き揚げましょう。一応提督にも掛け合いますが、
恐らく了承は得られるでしょう』

陽炎「ふぅ……よかった」

神通『皆さんは現海域を離脱してください。間違っても逆方向に進んではいけませんよ?
この先は敵のテリトリーになっているのですから』

陽炎「わかってますよ~。そこまで方向音痴じゃありませんってば」

神通『……いいですか、くれぐれも、くれぐれもお間違いの無いように』

陽炎「ね、念を押しますね……」

神通『幸運を頼りにはできませんが、不運による最悪のケースを想定することには
意味があります』

陽炎「こっちにはその幸運を頼りにできるのが一人いるけどね」

神通『では、ラン[ピザ]ーポイントにて落ち合いましょう。こちらは少し遅れるので
そのように……』

陽炎「わかりました! それじゃあ、陽炎、失礼しまーす!」

陽炎「……ということだから皆! 今日はさっさと帰りましょー」

叢雲「駆逐艦一隻としか戦ってないじゃない。なんだか物足りないわね」

雪風「まーまー、戦わなくて済むのならそれでいいじゃないですか」

電「なのです!」

陽炎「とりあえず……私は浮標を着けるから、皆、見失わないようについてきてね。
霧中信号を出すのも忘れないで」

綾波「……あれ、そういえば……」

若葉「どうした」

綾波「いえ、その……先程から夕立さんのお姿が……」

時雨「……ない」


時雨「夕立が……いない!」


680: おいィ……これはひどい 2014/04/06(日) 21:56:54.72 ID:55N5yBsEo
陽炎「やっと繋がった! 陽炎よ、よろしくね!」

神通『陽炎さん……ですか』

陽炎「神通さん! ちょっとこっち霧がすごいのよ~……これじゃあ任務の続行は
困難だわ」

神通『霧ですか……確かにこちらも少し、出てきていますね』

神通『……陽炎さんの電探は……確か二号二型でしたね。
最大有効距離は35km……いえ、駆逐艦だから17km』

神通『その装備では霧中での平常航行は非情に難しいでしょう。わかりました、
今日のところは引き揚げましょう。一応提督にも掛け合いますが、
恐らく了承は得られるでしょう』

陽炎「ふぅ……よかった」

神通『皆さんは現海域を離脱してください。間違っても逆方向に進んではいけませんよ?
この先は敵のテリトリーになっているのですから』

陽炎「わかってますよ~。そこまで方向音痴じゃありませんってば」

神通『……いいですか、くれぐれも、くれぐれもお間違いの無いように』

陽炎「ね、念を押しますね……」

神通『幸運を頼りにはできませんが、不運による最悪のケースを想定することには
意味があります』

陽炎「こっちにはその幸運を頼りにできるのが一人いるけどね」

神通『では、ランデブーポイントにて落ち合いましょう。こちらは少し遅れるので
そのように……』

陽炎「わかりました! それじゃあ、陽炎、失礼しまーす!」

陽炎「……ということだから皆! 今日はさっさと帰りましょー」

叢雲「駆逐艦一隻としか戦ってないじゃない。なんだか物足りないわね」

雪風「まーまー、戦わなくて済むのならそれでいいじゃないですか」

電「なのです!」

陽炎「とりあえず……私は浮標を着けるから、皆、見失わないようについてきてね。
霧中信号を出すのも忘れないで」

綾波「……あれ、そういえば……」

若葉「どうした」

綾波「いえ、その……先程から夕立さんのお姿が……」

時雨「……ない」


時雨「夕立が……いない!」


681: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:01:07.88 ID:55N5yBsEo

電「え……」

叢雲「いないって、どういうことよ……」

時雨「いつの間にか、消えてたんだ……!」

陽炎「そんな……! 一体どうして!?」

若葉「この霧の中で独断行動をするのは危険だ」

雪風「今すぐ夕立さんを探しに行きましょう!」

電「そうなのです! 今ならそう遠くには……」

陽炎「ダメよ。危険すぎだわ……」

雪風「どうしてですか!」

陽炎「ただでさえ敵との戦闘の可能性があるのに……それに加えてこの霧の中」

陽炎「司令や神通さんに聞いてみないと……」

叢雲「……返ってくる答えがわからないほど馬鹿じゃないでしょ? アンタも」

陽炎「なんですって!?」

叢雲「この状況下でGOを出す司令官なんていないわ。指示を仰ぐだけ無意味」

叢雲「それとも、そんなこともわからないの?」

陽炎「……元はといえば! あなたが駆逐艦一隻に拘るからこんな事になったんでしょ!」

叢雲「なによ、他人に責任を押し付ける気なの? それでも旗艦?」

陽炎「言わせておけば!」


電「いい加減にしてください!!!」


陽炎「!」
叢雲「!」

電「今は……そんなことで言い争っている場合じゃないのです……」

綾波「そうです。今すべきなのは……これから私達がどうするのかを考えること」

陽炎「そ、そんなこと言っても……夕立がどこに行ったかなんて誰も……」

時雨「……そう、だよね。こんな霧の中、夕立を探すのは無謀だ」

時雨「ここは一旦引くのが、最善なんだよね……」

雪風「時雨さん……」


「あのう……私、見ました」


682: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:04:33.73 ID:55N5yBsEo

雪風「え!?」

陽炎「あなたは……雪風の乗員の妖精さん?」

「夕立さんは……徐に針路を東に取り、進んでいきました。
まるで何かに吸い寄せられているかのように」

電「何かに吸い寄せられている……?」

叢雲「深海棲艦の仕業かしら?」

雪風「……夕立さんは東へ行ったんですね?」

「はい! たしかにこの目で見ました!」

電「ならば善は急げなのです! 夕立さんを追いかけるのです!」

綾波「助けられるなら、見捨てたくはないです。助けたくても助けられなかった
子は何人もいるから……」

雪風「雪風は……夕立さんをお守りしたいです!」

陽炎「……わかってるの? この先へ進むということは……敵のテリトリーに
足を踏み入れるってことよ……?」

時雨「そうだよ……夕立のことをそこまで想ってくれるのはうれしいけど……
それで皆まで危険な目にあったら……僕は」


若葉「勝算がないこともないぞ」


時雨「え……?」

若葉「この霧、味方だけにマイナスに働いている訳じゃない」

若葉「敵もこちらを発見しづらくなる。敵のテリトリーで動くのには寧ろ都合がいい」

若葉「この時しかない。この霧に乗じて夕立を回収し、速やかに離脱する……」

若葉「奇跡の作戦だ」


叢雲「……キスカ島撤退作戦か。面白いじゃない」


電「……やりましょう」

電「可能性があるのなら、助けたいのです!」

雪風「大丈夫です! 雪風がついています!」

綾波「ここで引いたら……みんな、絶対に後悔します」

叢雲「全く、アンタ達ときたら……」

若葉「奇跡の作戦をこんな形で再現することになるか。奇妙なものだ」


683: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:06:40.15 ID:55N5yBsEo

陽炎「……私は旗艦である以上、みんなの命を守る義務がある。夕立の事は大切よ?
だけど救出作戦は艦隊全体を危険に晒すことになる」


陽炎「だから今一度問いかけるわ。この先は敵のテリトリー……もしかしたら全滅だって
あり得るかもしれない」


陽炎「……それでも、いくの?」


叢雲「聞くまでもないわね!」
綾波「はい、大丈夫です!」
電「なのです!」
若葉「若葉だ。いつでも出撃可能だ」
雪風「絶対大丈夫っ!」


陽炎「……はぁー……ほんと、仕方ないわね!」

陽炎「いいじゃない、やってやろうじゃないの!」

時雨「みんな……!」

陽炎「第二偵察隊は、これより夕立の回収に入りまーす!」

陽炎「各艦は均等に距離を保って進行してね! 霧中信号は忘れないでよ」



こうして、第二偵察隊は駆逐艦 夕立の捜索に乗り出した。



684: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:09:42.83 ID:55N5yBsEo

限りなく続く白。霧の白に自身が蝕まれていき、存在の境界が曖昧になる。


「ゆうだち……」

夕立「……しらつゆちゃん、なの……?」


夕立を呼びかける声は優しく、甘美な響きを彼女の耳に届けては幻惑する。


夕立「ねぇ、どこにいるの……」

「夕立さん! 一体どこへ行こうと言うんですか……!」

夕立「ねぇ、姿を見せて……夕立は、あなたの正体が知りたいっぽい!」

「き、聞こえてない……」


乗員の妖精の言葉は夕立の耳の中を素通りしていく。
今の夕立には、あの謎の声しか聞こえていなかった。


「ゆうだち……ゆうだち……」

夕立「そっちなの? そっちにいるっぽい?」


徐々に近づく声。呼応するかのように高鳴る鼓動。
夕立はもう随分艦隊から離れていた。


「ゆうだち……」

夕立「!!」


その時、霧の中に人影が見えた。
その人影に、夕立は見覚えがあった。


夕立「……なんで? そんなはず……!」


ドォン!


夕立「!! 砲撃!?」

夕立「……どこ?」



685: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:13:53.10 ID:55N5yBsEo

霧の中で行われた砲撃。それは夕立に向けられている。
夕立は狼狽すること無く冷静に周囲を見渡した。
夕立は判断する。霧に乗じて敵は攻撃を仕掛けていると。


夕立「邪魔しないでほしいっぽい」ジャキ

夕立「そこかしら!?」ドン

バッッッシャアァァァン……!

夕立「……手応えがない」

夕立(霧の中じゃ……敵の位置が掴みづらいっぽい)


霧の中では砲撃を当てることさえままならない。相手の位置すらも把握できないのだから。
対して夕立は先程から動いていない。これでは良い的だった。
ここはまず何よりも動くことが先決であり、定石だった。
しかし夕立はそれをしなかった。


夕立(……面倒っぽい)

夕立「撃ってきなさい。それがあなたの最期よ?」


夕立は宣言する。返事はない。
空気はしんと染み入るように水気を帯びている。
水気が音を吸収し、無音に近い空間を生成していた。


バシャン……ザザザザザ……


夕立(……来た)


静まり返る海上に響く、船が海に航跡を描く音。
それが徐々に近づいてきて……その時が近いことを示す。


ギギギ……ドォン!


夕立「そこよ!」


ドォン!


敵の砲撃。直後に火を噴く夕立の主砲。
敵の放つ砲弾は夕立の体を掠め、艤装に被害をもたらした。
直後、夕立の前方にて炸裂する着弾の音。捉えた。
夕立は小破の被害を被ったものの、霧の中で敵を仕留めたのだ。


夕立「……さぁ、とどめを刺してあげるっぽい?」

686: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:16:07.35 ID:55N5yBsEo

夕立は白の中に浮かび上がる黒煙に近づいていく。
敵に止めを刺す為に。
しかしどういう訳か、それに近づけば近づくほど夕立の呼吸は荒くなっていき
心音を刻むリズムを乱した。

いよいよ夕立は敵と対面する。霧の中には人影が浮かび上がり、
その輪郭を徐々に確固たるものとしていく。


夕立「……!?」


そのシルエットを見て、夕立は絶句した。


夕立「しらつゆ……ちゃん!?」


白露型一番艦・白露。その影は彼女を象っていた。


夕立「なんで、どうして……なんでしらつゆちゃんが撃ってきてたの!?」


「ゆうだち……ゆうだち……」


彼女は答えない。ただ夕立の名を呼ぶだけだった。


夕立「しらつゆちゃん!」


夕立にはわかる。確かに彼女がそこにいるということが。
姉妹艦にしかわからない、存在の気配……それを夕立は感じ取っていた。


「ゆうだち……たすけて……ゆうだち……」

夕立「しらつゆちゃん!!」


夕立は駆け出す。白露の影が揺らめく場所に。

そして彼女は知るのだ。この世界の理を。


夕立「……え?」


そこにいたのは、


「ゆうだち……ゆうだttttttt」

夕立「なん、で……?」


一般的な深海棲艦の駆逐艦だった。

687: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:17:25.49 ID:55N5yBsEo

――海上・第二偵察隊――


陽炎「みんな! ちゃんと陣形は守ってる!?」

電「はわわ! 何とか大丈夫なのです!?」

陽炎「!? 電! なんであなたこんな前にいるのよ!」

電「ええ!?」


霧の中での艦隊行動を想定していなかった第二偵察隊は、航行さえもままならない状況だった。


陽炎「ちょっとちょっとかんべんしてよもう~」

電「す、すみません」

叢雲「さっきから霧中信号忘れてるわよ! しっかりしなさい!」

雪風「ゆ、雪風は大丈夫です!」

若葉「若葉だ」

時雨「みんな、ちゃんとついてきてるかい!?」

陽炎「……」


陽炎「……綾波の、霧中信号が……ない?」


叢雲「……なんですって?」


事態は決して好転すること無く、悪転を繰り返し坂を転げ落ちていく。



688: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:19:46.02 ID:55N5yBsEo

――海上・霧の中――


綾波「……みなさん、一体どこに……?」


一層濃くなる霧を前にして、艦娘同士の間隔を変更せずに維持したのは失敗であった。
最後尾にいた綾波は濃さを増す霧により、艦隊からはぐれてしまったのだ。


綾波「……あのー! だれかぁー!」


呼びかける声は虚しく響き、再び寂寞とした霧が降りてくる。


綾波「!!」


しかし綾波は見つけた。霧の奥で光るものを。
探照灯だ。陽炎の探照灯に違いない。
綾波はぱぁっと顔を綻ばせると、逸る気持ちを抑えて前進する。

だがそれは、接近するに連れて徐々に疑わしいものとなり……


綾波「……あれ?」


いざ対面した時には、それが全く別のものであることに気がついたのだ。


戦艦ル級「……?」

戦艦タ級「……ッ」

綾波「あれ? あれれれれ?」


綾波「あのー……もしかして……敵の本隊さん、でしょうか?」




689: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:21:56.72 ID:55N5yBsEo

――海上・第二偵察隊――


陽炎「どうしよう……綾波までいなくなるなんて」

叢雲「もう少し速度を落として、慎重に行かないと駄目なようね……」

電「こんなことになるなんて……電達は、間違っていたのでしょうか……?」

叢雲「ここまで来ておいて何言ってるのよ!」

若葉「もう後戻りはできない」

時雨「……どうして」

時雨「ここには幸運艦が二人も居るじゃないか! それなのに、どうしてこんなことに……」

雪風「……綾波さんなら、多分大丈夫!」

時雨「……なんでそんなことが言えるんだい、雪風」

雪風「それは……その、雪風の勘です!」

時雨「キミはどこまでもポジティブだね……」

陽炎「……どうするの? 綾波を探すの? 夕立を探すの? それとも引き返す?」

陽炎「この霧の中じゃ二手に分かれる訳にもいかない。どちらかを優先しなくちゃいけない」

陽炎「この決断が、彼女達の命運を左右するかもしれない」

電「それは……」

叢雲「……」

陽炎「あなた達が決められないなら私が決めてもいいわ。私は旗艦だからね」

陽炎「責任も、結果も、全て私が引き受けてあげる。それならみんな気が楽でしょ?」

若葉「陽炎、自棄になるな」

陽炎「自棄になんか……」

叢雲「……何アンタ一人で背負い込もうとしてんのよ。
……勝手に話を進めるんじゃないわよ」

690: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:22:58.90 ID:55N5yBsEo

叢雲「これは誰の決断でもない、隊の決断よ。その責任は皆が負う。
だからアンタ一人で勝手に背負い込まないでよね、全く」

陽炎「叢雲、あなた……」

若葉「ならば今は夕立を追うのが先決だ」

時雨「それは……どうしてだい?」

若葉「夕立の様子がおかしいと雪風の乗員は言っていた。それが気がかりだ。
正気を保っている綾波なら危機回避はできる。しかし夕立はそれすらも怪しい」

陽炎「……なるほどね」

叢雲「綾波には悪いけど……少しの間だけ我慢してもらうしか無い……か」

電「大丈夫でしょうか……」

雪風「心配ですが……早く夕立さんを見つけて、綾波さんとも合流しましょう!」

陽炎「そうね……」


そうして偵察隊は、夕立を先に捜索する事に決めたのだった。



691: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:24:45.82 ID:55N5yBsEo

――海上・霧の中(夕立)――


夕立「……深海棲艦」

「ゆうだち……ゆうだち……」

夕立「全く、何を考えていたのかしら? しらつゆちゃんが生きてるわけ無いっぽい!」

「ゆうだち……ゆうだち……」

夕立「も、もう……まだ幻聴が聞こえてる……」


夕立は言い聞かせる。目の前の駆逐艦は深海棲艦だと言い聞かせる。
けれど、頭に響いてくる声が夕立の理性をかき乱す、


夕立「さぁ、早くこの深海棲艦、沈めなくちゃ!」


夕立は主砲を構える。大破している深海棲艦にとどめを刺そうと砲を向ける。


だけど、


夕立「沈めなくちゃ……」


なのに、


夕立「沈めなくちゃ、いけないのに……」


どうして、手が震えるのか。


夕立「照準が定まらない……ぽい」


本能が、拒否しているのだ。姉妹に主砲を向けることを。


夕立「でき、ない……」

「ゆうだち、ゆうだち……」

夕立「う……うぅっ」



692: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:29:10.40 ID:55N5yBsEo

夕立はもう何がなんだかわからなくなって、目を閉じてしまう。
視界を閉ざし、真っ暗な世界で一人、真実から逃避するように。

でも、夕立は見えてしまった。
視界を閉ざすことで、純粋な気配のみが夕立の脳内に流入する。
深海棲艦が居るはずの場所に、夕立の脳内が映しだしたビジョンは、

紛れも無い、白露の姿だった。


夕立「しらつゆ、ちゃん……」

白露「夕立……ごめん」

夕立「なんで、謝るの……」


白露「あの、あたし……深海棲艦になっちゃったー…だから、早く……沈めて」


夕立「そんな訳ない! 艦娘が深海棲艦になるなんてこと……」

白露「深海棲艦は……海に沈んだ船の魂と怨念で出来てるんだって」

白露「それは艦娘だけじゃなくって、今まで沈んできた沢山の船、
その全てが含まれているんだよ……」

白露「そして艦娘は軍艦の魂を核にして生まれた存在。同じ船の魂から生まれた深海棲艦
とは近い存在……艦娘はその影響を最も受けやすい」

白露「そもそも艦娘は船だもん、深海棲艦にもなるよー……」

夕立「嘘! そんなの、あんまりすぎるっぽい!」


夕立「じゃあ……じゃあ夕立達に……艦娘に、救いはないってことじゃない!!」


白露「それは……」

夕立「それに……また、しらつゆちゃんが沈む所なんて、見たくない!!」

夕立「夕立はしらつゆちゃんを沈めたくなんか無い!!」

白露「ごめん……夕立。でも……あたし、このままじゃ……また誰かを傷つける」

白露「……あなたに、その傷を負わせたように」

夕立「こんなの、かすり傷っぽい!!」

白露「勝手なことを言ってるって、わかってるよ。でもこれ以上耐えられない……」

白露「もうどうにかなっちゃうの!! あたしじゃどうしようもないんだから!!」

白露「助けて夕立。おねがい……おねがい……ッ!」

夕立「ほんと……勝手だよ、身勝手すぎるっぽい!!」

夕立「夕立にそんなことを頼むなんて……ひどすぎる」

693: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:31:22.25 ID:55N5yBsEo



「ほんと、酷い姉よね~……」



夕立「へ……?」


ドォン!


夕立「あが……!?」


意識が飛びそうなほどの衝撃。機関部の悲鳴。
夕立は顔をゆっくりと上げると、そこには……


村雨「夕立、お久しぶり~?」


夕立「むらさめ、ちゃん……?」

村雨「はいはーい、村雨だよー?」

夕立「むらさめちゃんまで……!」


夕立はゆっくりと目を開ける。頭部から伝う生ぬるい液体が血だということに気付いたのはこの時だ。
そして村雨のビジョンが映っていた場所にいたのは……やはり深海棲艦だった。


夕立「あぁ……そうなんだ」

村雨「どーしたの? 夕立?」

夕立「希望と絶望は紙一重。こんなにも近くに、いつもそばに絶望はあった……」

村雨「希望も絶望もあるんだよ? 夕立も早くこっち側に来たらいいんじゃないかしら~?」

夕立「それも、いいかも」


夕立「むらさめちゃんになら、沈められても……」




694: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:33:27.66 ID:55N5yBsEo

――海上・霧の中(綾波)――


逃げればよかったかもしれません。
即座に逃げていれば、この霧の中。まだ逃げられるチャンスはありました。


綾波「はぁ~……ごくりっ」


でも、この敵の数……戦力。きっと偵察隊に当たったら、ひとたまりもありません。
だから……。


綾波「綾波! 行きますッ!!!」


――このこみ上げる熱さはタービンの熱? いえ、違います……
この熱さは、覚悟を決めた者の心に宿る炎。命を燃やす、炎!


駆逐艦 綾波、単艦、敵巡航艦隊の本隊に突撃。


戦艦タ級「!!」ジャキ

戦艦ル級「ッ!」スチャ

駆逐艦群「!!!!!!!!!!!」ガガガガガガガコン

綾波「おっとぉ……」


ドッッゴオオオオオン!
            ズゴン!
 ドン!
    ドン!
       ドン!


敵艦隊、一斉砲撃。


綾波「寄ってたかって! 恥ずかしくないんですかぁ~っ!」


しかし綾波、回避、回避、回避!


綾波「やられっぱなしじゃ、終わりません!! てぇーい!!」


ドン! ドン! ……ドオォォォォン!



695: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:34:50.99 ID:55N5yBsEo

駆逐イ級「!??!? ……、……」

駆逐イ級、直撃弾により撃沈!


駆逐ロ級「ッッッ!」

駆逐ロ級、炎上!


綾波「や~りま~した~!」

駆逐ハ級「ッ!」ドン!

綾波「おっとっと!」

戦艦ル級「……ッ……、ッ!」スチャ

綾波「!!」


戦艦ル級、綾波に照準をあわせ……砲撃!


ズゴオオオオオン!!!


綾波「ったぁ~……魚雷管が……」

駆逐イ級「!」ドン!

駆逐ハ級「ッ」ドン!

綾波「あうっ……・やめてくださいっ……」


間断なく続く攻撃。当初は押していたかのように思えた戦局は、
すぐさま劣勢へと移ろいだ。故障部が引火し、綾波の艤装は炎上を始める。

でも、それでも、綾波は後退せず。


綾波「まだ!」

ドォン!

駆逐イ級「ッッ!?」


ひたすら砲撃を続けた。


綾波「戦えるはずです!」

ドォン!

駆逐ハ級「!?」

綾波、敵駆逐艦二隻を撃沈す。

696: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:37:25.87 ID:55N5yBsEo

綾波「力がみなぎってくる……!」

綾波「この身は、心は、魂は! 今、信ずるべき仲間の為に燃えている!
正しき事をなす為に燃えている!」



綾波「この炎を消すことなど、誰にも出来はしません!!」



駆逐艦 綾波、戦艦ル級に向けて魚雷を発射。
その勢いは留まることを知らず、ぐんぐん伸びていき……


ゴオォォォォォォォォン!!!!


戦艦ル級「ッ……!」


ル級を中破させるにまで至る。
鬼神の異名を持つ彼女は、その名に恥じない活躍を見せた。

が、しかし……彼女は既に、満身創痍だった。



綾波「……ふぅ、ここまで……ここまでやれれば……きっと、大丈夫ですよね……」

戦艦タ級「……」ジャキ




綾波「綾波、もう、ここまでみたいです」






ドォン……!





697: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:39:55.58 ID:55N5yBsEo

――海上・霧の中(夕立)――



この世界はなんて残酷なんだろう。


村雨「はいはーい! 早く夕立も深海棲艦になろうねー?」


この世界はんて救いがないのだろう。


白露「夕立……助けてよ……夕立……」


夕立「う……うぅ……なんで……なんで夕立達がこんな目に……」

夕立「夕立達が、何をしたっていうの……?」


「艦娘の存在……それ自体が呪いのようなものです」


夕立「あなたは……!」

エラー娘「どうも、夕立さん」

夕立「教えてほしいっぽい……これは全部、あなたのせいなの?」

エラー娘「私は何もできませんよ。ただ居るだけ。ただ知っているだけ」

夕立「じゃあ、誰が悪いの……一体、一体この悪意は! どこから来ているの!!」


エラー娘「それは……人間ですよ」


夕立「人間……?」

エラー娘「この静かな海を最初に犯したのは誰か。最初に戦いを始めたのは誰か
最初に船を沈めたのは誰か……」

エラー娘「全ては人間の業……」

エラー娘「母なる海は全てを受け入れる。人間の業も全部。だからでしょう……
溜まりに溜まった業は、いつしか海を守る善意へと変質していった」

エラー娘「深海棲艦とはつまり、純粋な海の善意なんです」

エラー娘「もっとも、人間にとっての善意とは限りませんけどね……」

夕立「……そんなのって」




698: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:42:28.11 ID:55N5yBsEo

エラー娘「あなたは至った。この真実に至った。さぁ、あなたはこの救いのない世界に
立ち向かいますか?」

夕立「……立ち向かって、どうするっていうの? この呪われた因果に……」

夕立「夕立はもう、つかれたっぽい……」

村雨「なら、早く楽になっちゃいましょうか?」

夕立「うん。もう……これ以上……」


「――夕立!」


夕立「……?」


「夕立ー!」          「若葉だ」
       「夕立さーん!」

        「さっさと出てきなさいよ夕立!」

「おい、夕立」              


夕立「みん、な……?」


夕立「皆が、夕立を探してくれてる……」


夕立は思い出す。
夕立の頭には、あの日の演奏が、その風景が流れ込んでくる。

楽しかった。一時だけど、苦しいことばかりだったけれど、あの時は、


あの時だけは確かに……夕立は、救われていたのだ。


夕立「……ごめん、むらさめちゃん」

夕立「やっぱり夕立、そっちにはいけないっぽい」


ドン!



699: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:44:03.71 ID:55N5yBsEo

村雨「……そう。そうね……それが正しいわ」

村雨「ごめんね、沢山いじわるして」

夕立「……わかってた。むらさめちゃんは、酷いことできる子じゃないっぽい」

村雨「あはは……けっこう悪役頑張ってみたんだけどなー……」

夕立「演技へたっぽい」

村雨「あー、酷いじゃないー!」

夕立「ほんと、酷い……」

村雨「……」

夕立「……」

村雨「村雨、もういくね」

夕立「……むらさめちゃん」

村雨「かつての私の死は、あなたのせいじゃない。あれは私の選んだ結末よ」

村雨「夕立はやさしいから負い目を感じているかもしれないけど……気にしちゃ駄目だよ?」

夕立「むらさめちゃん!」

村雨「じゃあね?」

夕立「ぁ……」



そうして、村雨のビジョンは消えた。
残っていたのは、深海棲艦の残骸だった。




700: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:45:37.28 ID:55N5yBsEo


白露「村雨……逝けたんだ。よかったー……」

夕立「しらつゆちゃん……」

白露「今度は私のばんじゃないですかー! 早く、一思いにやっちゃってー?」

夕立「……しらつゆちゃん、ごめん」


ドォン!


白露「……夕立が謝ること無いよ。誤らなくちゃいけないのは寧ろこっちだもん」

白露「ごめんね……姉妹を撃たせて。辛いことばかり押し付けて……」

夕立「今の夕立の命は、しらつゆちゃんなくしてはありえないから」

夕立「だから、しらつゆちゃんのお願いなら、夕立なんでも聞いてあげるっぽい」

白露「あぁ……あたし本当に」



白露「幸せな……姉だ」



白露のビジョンが消える。
夕立の視界には、永遠と続く黒だけが残された。
目を開けると、どこまでも白い景色……。
それはまるでこの世界の、裏と表。



エラー娘「夕立さん。あなたはこれから一体どうするつもりですか?」

夕立「……夕立は、皆の為に……」

夕立「このちっぽけな存在を、せめて……少しでも夕立を救ってくれた……皆の為に……」

エラー娘「夕立さん、あなた……まさか……」



701: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:47:44.51 ID:55N5yBsEo

――海上・第二偵察隊――


陽炎「この近くに反応があったのよ! 多分夕立の……」

叢雲「近くにいるのね!?」

雪風「早くお助けしなくては!」

電「あ……あれ! みなさん! あれを!」

時雨「! ……夕立!」


夕立「……みんな、ただいまっぽい?」


若葉「! お前……」


彼女達の前に姿を表した夕立は、全身ボロボロで……血だらけで……
浮いているのがやっとな状態だった。


時雨「夕立!? どうしたのさその傷!」

陽炎「深海棲艦の仕業ね!」

叢雲「どこにいるの!? この私が蹴散らしてやるわ!」

夕立「いいの。もうおわったっぽい」

時雨「夕立……?」


夕立は、酷く疲れた声をしていた。
顔は見えない。
時雨はその時、言い表せぬ不安に駆られた。


陽炎「敵と交戦して、勝ってきたのね?」

夕立「っぽい」

電「ぶ、無事でよかったのです……」

叢雲「これを無事と呼べるかは怪しいところだけど……」

陽炎「夕立。あなたはゆっくりと休みなさい。私達が守ってあげる」

雪風「夕立さんが無事見つかったことですし……次は綾波さんですね」

叢雲「案外進行先で待ってるかもしれないわね」


702: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:49:48.86 ID:55N5yBsEo

時雨「夕立……本当に心配したんだよ?」


夕立「しぐれちゃん、ごめんなさい」

時雨「全く、キミときたら昔から……」

夕立「……! 何か、来るっぽい!!」

陽炎「! ……複数艦接近! 綾波じゃない!」


ドオォォォォォォォォン!!


叢雲「!!」

電「はわわ!」

若葉「敵襲か」


戦艦タ級「……ッ」


電「戦艦さんなのです……!」

時雨「しかも、二隻もいる……!」

若葉「どうする。こちらは手負いが居る。逃げきれるかどうかわからない」

陽炎「もちろん、戦うわ!」

雪風「そうです! お守りします!」

叢雲「そうこなくっちゃね!!」


夕立「あの戦艦ル級……中破してるっぽい?」


陽炎「……ホントだわ」

電「よく見ると、他の艦もところどころ負傷しているのです」

時雨「一度戦闘になったのかな……でも相手は……?」

陽炎「……まさか」


夕立を除く全員が息を呑んだ。
ここにいない艦娘……その少女のたった一人の孤独な戦いを、
彼女達はようやく知ることになった。



703: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:51:47.18 ID:55N5yBsEo

叢雲「な、何言ってるのよ……神通達にやられたのかもしれないでしょ?」

電「そうなのです!」


そんなはずがないのは自分達が一番良く知っていた。この時間内に神通達と戦闘をし、
ここまで退避してきたというのは現実的に考えて無理がある。
途中で綾波と戦闘があったと考えるのが妥当だった。

だから、彼女達は狼狽えて……敵の砲撃をむざむざと許してしまった。


ドン! ドン! ドオォォォン!!


電「はにゃああ!?」


駆逐艦 電、中破!


叢雲「あ、ありえないわ!!」


駆逐艦 叢雲、中破!


陽炎「くっ……みんな落ち着いて!」


一時の油断から戦線は一気に崩れる。
陽炎自身も未だ狼狽の色が消えないというのに、更に負傷艦が増えたとあっては……。
最早彼女の対処できる範疇を越している。状況は最悪だ。


夕立(このままじゃ、みんなが……そんなこと、させない)

夕立(……吉川艦長、夕立に……力を)


夕立「今一度ソロモンの悪夢となる、力を!」


夕立は、死力を振り絞った。


時雨「ゆう、だち……?」


その瞳は赤く染まり、血だらけのその姿はまさに……


夕立「……最高に素敵なパーティしましょう?」


ソロモンの、悪夢だった。



704: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:53:24.55 ID:55N5yBsEo

夕立「夕立突撃するっぽい!!!」

時雨「夕立! 待って!」


時雨の制止も聞かず、夕立は勇ましく、そして鬼気迫る勢いで敵艦隊に突撃した。


夕立「これでどうッ!?」ドンドン!

戦艦タ級「!!!」ドォォン!

陽炎「戦艦と一対一なんて無茶よ! 若葉! 援護に回るわよ!」

若葉「無茶を言うな。こっちは他の敵艦で手一杯だ」


その戦い方はあまりに壮絶だった。


駆逐イ級「!」ドン!

駆逐ロ級「!!」ドドン!

夕立「……なにそれ? もう、おわり?」

夕立「こんなの全然痛くないっぽい!!」


駆逐艦 夕立、敵の砲撃を物ともせず突進。


駆逐達「ッッッ!!?」

夕立「誰も夕立を止められないっぽい!!」


ドォン! ドンッ! ドンッ!


駆逐イ級「!?」

駆逐ロ級「……、……」


駆逐艦 夕立、駆逐艦二隻撃破!


夕立「はぁ……はぁ……あとは、戦艦二隻!!」

時雨「夕立! 無茶だよ! キミはもう……そんな体じゃ!」

夕立「しぐれちゃんは……下がっててほしいっぽい」

時雨「僕は夕立を一人にしない! 今の夕立は一人になったら……なんだか……」


時雨「沈んでしまいそうだ……」

705: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:54:56.30 ID:55N5yBsEo

夕立「……しぐれちゃん」

夕立「夕立は、許されたっぽい」

夕立「しらつゆちゃんと、むらさめちゃんに許されたっぽい」

時雨「何を、言っているんだい……?」

夕立「これでようやく夕立は……心のつかえがとれたっぽい」


夕立「皆の為に、戦えるっぽい!!」


時雨「君はもうソロモンの悪夢じゃない! 悪夢じゃないんだ……!」

時雨「だからもう、やめてよ……!」

夕立「最後のパーティ、始めましょ!!」

時雨「夕立!!!」


夕立は決して立ち止まらなかった。


夕立「あなた達はここで……沈むっぽい!!」ドン!

戦艦ル級「ッ!」ドオォン!


戦艦ル級と相打ち。ル級は撃沈し、夕立は立っていた。
しかし彼女の横腹は大きく吹き飛んで……

それでも尚、彼女は戦いをやめなかった。

正気の沙汰ではなかった。そんな状態で戦える訳がなかった。


夕立「最後の、魚雷、よ……」

夕立「これで、おわる……」


バシュン!



ドッゴオオオオン!!



夕立の放った魚雷は、見事に戦艦タ級を仕留めた。



706: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:56:27.62 ID:55N5yBsEo

雪風「……!」


その痛々しい姿……戦い……その全てを、雪風はその目に焼き付けた。


時雨「夕立……夕立……ッ!」


時雨にはもはや涙で見えてはいなかった。彼女の、夕立の顔は見えてはいなかった。


時雨「かえ、ろう……」

時雨「帰ろう夕立……」

夕立「……」


夕立は背を向けて佇んでいる。
声はなかった。声帯が焼け焦げていたから。


時雨「僕が、曳航していくよ……」

時雨「一緒に帰ろう、夕立」


夕立は振り返った。時雨は涙で顔がよく見えない。



夕立「……sぐrちゃn」




夕立「……a…、……」




時雨「……え?」



瞬間、夕立は自らの艤装に向けて、


砲弾を撃ち込んだ。


707: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:57:50.39 ID:55N5yBsEo

時雨「……ぁ」


海上で、爆発が起きる。
それは全てを吹き飛ばすように。塵一つ残さないまでに。


陽炎「な、何!? 何が起きたの!?」

若葉「おい、時雨!」





敵艦隊の残存戦力を片付けた陽炎達がやってくる。
そこには放心した時雨と、神妙な面持ちで佇んでいる雪風が居るだけだった。





708: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 22:58:28.15 ID:55N5yBsEo

――海上――



神通「おかしい……いくら霧とはいえ、遅すぎます……」

朝潮「何かあったのでは……?」

初風「妙高姐さんか……」

黒潮「いや、味方やんそれ」

満潮「……! 来たわ!」

神通「……!」


霧の中から現れる、第二偵察隊。
彼女達は心身共にボロボロで……。


神通(綾波さんと、夕立さんがいません……)



大きなものが、欠けていた。




709: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 23:00:24.10 ID:55N5yBsEo

――数日後。


――泊地・大広間――


雪風「……時雨さん!」

時雨「雪風……」

雪風「軍楽隊の練習、見に来ませんか? 気分くらいは紛れると思います……」

時雨「……ごめん、やっぱり今は……そういう気になれないよ」

雪風「そう、ですか……」

時雨「夕立は、皆の為に最後まで戦った。夕立自身も……その行動に悔いはなかったと思う」

時雨「でも……なんで、なんで夕立は最後……自分の艤装を撃ったんだろう」

時雨「それに最後、なんて言ってたのか……わからなくて」

時雨「ねぇ、雪風。夕立は報われたかな? 皆を助けたことで少しでも彼女の心は……救われたかな?」

雪風「……ええ、きっと。最後に皆さんを救えたのですから。きっと……」


自分達に対して都合の良い解釈なんて、いくらでも出来るんです。

でも……雪風だけは、真実と向き合います。



そう、雪風は……、嘘をつきました。




710: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 23:02:10.51 ID:55N5yBsEo

夕立「……最高に素敵なパーティしましょう?」


夕立さんはきっと、静かに絶望していたんです。


夕立「こんなの全然痛くないっぽい!!」


皆の為に戦っていたのは、それは紛れもない事実です。


夕立「あなた達はここで……沈むっぽい!!」


でも、彼女は、あの時、間違いなく……何かから開放されたがっていたんです。
死に場所を求めていたんです。


夕立「これで、おわる……」


彼女は何かを知ってしまったのかもしれません。今となってはそれもわかりませんが……


雪風はあの時の夕立さんの顔を見ていました。その顔は最後の一時まで、



絶望していたんです。




夕立「……sぐrちゃn」



――しぐれちゃん。



夕立「……a…、……」





――この世界の方が、よっぽど悪夢だったっぽい。





711: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 23:03:28.83 ID:55N5yBsEo


エラー娘「……夕立さんは、その魂が消滅しました」


エラー娘「もう魂の輪廻に乗ることもない。本当に、粉々に砕け散ってしまったのです」

エラー娘「さぁ、いよいよ終末は近いです」

エラー娘「あなたはこの先、目をそらさずに真実を見続けていられますか?」


エラー娘「陽炎型駆逐艦、雪風さん」


雪風「……雪風は、この因果に縛られた時から……既に覚悟しています」

雪風「全てを見届けます! 全てを覚えています!」


雪風「例え雪風だけでも……真実を……覚えていたい!」


雪風「それくらいしか雪風が彼女達にしてあげられることはありませんから……」

エラー娘「……結局あなたも、かつての因果に囚われているのですね」


エラー娘「あぁ、なんて残酷。願わくば、この世界に救いがあらんことを……」




712: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 23:05:11.99 ID:55N5yBsEo

――泊地・執務室――


提督「綾波……夕立……先の作戦では、大切な仲間を二人も失ったよ」

提督「私のやり方は、間違っていたのだろうかね……」

金剛「テートクのやり方は、間違ってはいまセン。ただ……」


金剛「もう、限界なんデス……」


提督「……本部から支援物資が途絶えてずいぶんと経つ。先日とうとう連絡もつかなくなったなぁ」

提督「本当に本当に……手詰まりだ。こればかりは言いたくなかったんだがね……」

金剛「皆薄々感づいてマスよ、それくらい」

提督「……金剛、お前さんに一つ訪ねたい」

金剛「なんデスかー?」


提督「少しでも永らえるのと、一時でも輝くのと……お前さんなら、どちらがいい?」


金剛「そんなの……」

金剛「テートクと最後まで、フォーリンLOVEネ」

提督「答えになっとらんぞ……」


資源は枯渇し、燃料も底が見えてきた。


提督「覚悟を、決めるか……」



終末は、近い。

713: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 23:08:04.15 ID:55N5yBsEo
no title

715: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 23:18:04.45 ID:sLORTQF70
綾波編でもあっただろ!
乙です

716: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/06(日) 23:28:56.09 ID:55N5yBsEo
次回は何やるかちょっと迷っているっぽい。

【鈴谷の遙かなる航路】

【提督日誌】
になると思うっぽい。

どっちにしろあと2、3話位で終わらせたいっぽい。

誰か夕立ちゃんがハッピーになれるSS書いて

717: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/07(月) 00:42:21.54 ID:+HAVMZNAO
沈んで深海棲艦にならないために爆散したのか・・・夕立

718: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/07(月) 19:02:49.66 ID:EHs+dPxDO
ぽいぽいがかわいい絵師なら知ってるぞい。
北上さん、島風、時雨と夕立。北上さんの回○揚げ・・・


【艦これSS】終末艦これショート その1
【艦これSS】終末艦これショート その2
【艦これSS】終末艦これショート その3
【艦これSS】終末艦これショート その4
【艦これSS】終末艦これショート その5
【艦これSS】終末艦これショート その6
【艦これSS】終末艦これショート その7
【艦これSS】終末艦これショート その8
【艦これSS】終末艦これショート その9
【艦これSS】終末艦これショート その10
【艦これSS】終末艦これショート その11